Straight In
兵庫県加古郡稲美町 — 築31年 戸建て全面リノベーション
間取りの「当たり前」をひとつずつ疑っていくと、家はここまで変わる。
築31年の中古住宅。1階は和室と洋室の続き間、吊戸で囲われた対面キッチン、洗面脱衣所。この年代の戸建ての、教科書のような間取りだった。買い手はご夫婦とお子さんの3人家族。要望は、広いリビング、アイランドキッチン、たくさんの収納。そして「テレビ裏の収納は、YONのあの事例のように」。
ただ、誰かにとっての使いやすいが、この家族にそのまま当てはまるとは限らない。同じ壁を置くにも、まずこの家の間取りの骨格から組み替える必要があった。
改修前は、玄関からホールに上がり、ホールから各部屋のドアへ配られていく間取りだった。このホールを消し、土間を横に延ばして引戸を突き当たりに据えることで、玄関は「取り次ぎの場所」から「LDKへの入口そのもの」に変わった。引戸を一枚引けば、もうリビングである。
そしてホールと隣の押入は、間の壁を取り払ってひと続きにした。家の中心・階段の足元は、一日に何度も通り過ぎるだけだった廊下から、洗面とトイレという毎日使う場所に変わった。動線を玄関からLDKへ付け替えたからこそ、空いた中心を水まわりに明け渡せる。図面の上では数十センチの操作に見えて、家の使われ方そのものが入れ替わる組み替えである。
土間・框・ベンチは一体のモルタルで打った。ベンチは框の延長線上にあり、床が持ち上がってそのまま腰掛けになる。別々の部材を寄せ集めた玄関には、土間と框の線、框と式台の線、置き家具の輪郭と、細かい線が何本も走る。ここにはそれがない。目に入る線が少ない空間は、それだけで静かに見える。靴を履く、腰掛ける、上がるという動作は全部受け止めたまま、形としてはひとつの塊。用は足りているのに何も置いていないように見える、その落差がこの玄関の美しさだと思う。
和室、洋室、押入の間仕切りを払い、ひとつのLDKにした。構造に関わる柱と筋交いは、余分なものは省き、必要な箇所には補強を入れたうえで、残すものを選び抜いている。残した柱と筋交いは、隠すのではなく消す方向を変えた。壁と同じ色に塗って空間に溶かすことで、構造材でありながら悪目立ちせず、グレーの空間に調和して立つ。仕切りだらけだった1階は、構造の線だけが淡く残る、ひとつながりの部屋になった。
旧キッチンは吊戸と垂れ壁に囲われ、小窓ひとつでLDと繋がる「名ばかりの対面」だった。囲いを全部取り払うことで、四方から回れて、どこからも視線の通るアイランドになった。フードは天井から吊り、天板はステンレス、箱はラワン。背面も吊戸から可動棚、家電カウンター、引戸まで一面を同じラワンで通すことで、設備の集まりだった場所が、ひと組の家具のような佇まいに変わっている。
洗面台は、脱衣所ではなくLDKと階段の間、家の中心に納まっている。よくある間取りでは洗面・脱衣・浴室がひとまとまりで、来客は手を洗うためだけに、洗濯物や着替えの置かれた一番私的な場所へ通される。手洗いを脱衣から切り離すことで、客も家族も、誰の領域も侵さずに手を洗える。自邸から続けてきたYONの定石が、この家では廊下の再編とちょうど噛み合った。壁の袖で半分だけ隠れ、丸見えにならず、迷いもしない位置。タイルは施主が選んだティール。グレーで統一した家の中で、ここだけ色が跳ねる。毎日顔を洗う場所の色は、住む人が決めるのがいい。
この事例で、トイレだけビフォー写真がない。なぜか。改修前、このアングルにカメラを置くと、写るのは壁だったからだ。位置はほとんど変えず、向きを90度振ることで、壁の裏側だった場所が、洗面からの通路を正面に受けるトイレに変わった。位置を守れば給排水の大工事は要らない。向きを変えれば、新しい動線に組み込める。背面は白のモザイクタイル。この家で一番小さく、一番手数の入った部屋になった。
改修前の洗面所は、洗面台、洗濯機、給湯リモコン、分電盤までが一室に押し込まれ、壁の余白がないほどごちゃついていた。洗面を外に出すことで、残った部屋は洗濯と着替えに専念できるようになり、壁一面を可動棚に使えるようになった。あれだけ詰まっていた部屋が、タオルも洗剤も着替えも棚に収まって、床と壁の見える部屋に変わっている。
指差された「テレビ裏収納」の正体は、壁一枚ではない。リビングの真ん中にモルタル仕上げの壁を立て、テレビはその面に掛かる。丸い開口は配線の通り道で、配線は床を這わずに壁の裏へ消える。そして壁の裏側が、両側を棚に挟まれたウォークスルーの収納になっている。棚柱で全段動き、棚の中にコンセントも仕込んだ。リビングから見えるのは静かなモルタルの壁一枚。その裏に、この家の「たくさんの収納」が隠れている。表と裏で役割を分けた、一枚二役の壁である。
真似したい、と言われて作った家が、結果として元の事例とは別物になった。間取りが違い、構造が違い、住む人が違うのだから当然だ。渡したのは、指差してもらった一枚の写真ではなく、その裏側にある考え方のほうだ。それがこの家への、いちばんの答えだったと思う。
- Location
- 兵庫県加古郡稲美町
- Type
- 戸建て全面リノベーション
- Age
- 築31年
- Size
- 建築面積54.24㎡/延床98.53㎡
- Scope
- 全面
- Design Term
- 約3か月
- Term
- 約3か月
- Design / Build
- YON