Tucked In
兵庫県姫路市 — 築42年 戸建て全面リノベーション
防犯と断熱のために、窓を小さくすることから始めた全面リノベーション。閉じた家の中を、視線だけが抜けていきます。
要望書は、対話の中から引き出して書き留めていくことが多い。この家の一枚に並んでいたのは、暮らしの解像度で書かれた注文だった。洗濯機は2台置けること。洗濯にも外の水栓にも、お湯が出ること。断熱の性能。そして防犯。
だからガレージに面した掃き出し窓は腰窓に、1階の開口部はほとんど小さく作り替えた。防犯のためであり、断熱のためでもある。開放感を売りにするリノベーションが多い中で、この家はまず、閉じることから始まっている。
そのかわり、道路との間を仕切っていた塀と門柱は撤去した。防犯は窓で確保したから、入口はむしろ開けられる。道路から玄関までを一枚のモルタル土間で繋ぎ、車も自転車も人も同じ面に乗せて、カーポートの屋根で覆った。閉じる場所と開く場所を、入れ替えたと言ってもいい。
玄関の引戸は木目の縦格子。外のモルタルは土間として途切れずに室内へ続き、内と外の境目を曖昧にする。靴の棚は針葉樹合板の造作で、土間の上に浮かせて納めた。
築42年。外壁に面する壁は、1階も2階もすべて解体した。断熱材を入れ替えるためである。性能に関わる部分は、迷わず骨まで戻す。そのうえで、「残すもの」と「新しくするもの」の線を引いていった。壊して新品を入れる方が安くつく場面もある。それでも残したものが、この家には三つある。
一つ目は、廊下の壁と天井。既存の合板のまま、研磨も塗装もしていない。二つ目は、和室二間の境にあった彫刻欄間。これは施主の希望だった。残して、どこかに使いたい、と。LDK化にあたって天井を現しにし、天井高が上がったため、欄間は同じ通りのまま高さだけを持ち上げ、ヒノキで枠を新調して納め直した。透かし彫りの向こうに、今はステンレスのキッチンが見える。
三つ目は、建具の型板ガラス。同じ表情のガラスは、もう製造されていない。
和室二間とキッチンは、北側一室のLDKに統合した。キッチンはステンレスのアイランド。背面の棚と有孔ボードの壁、洗面のカウンターまで、造作は針葉樹合板で通した。設計も製作も取り付けも、同じ手でやっている。
この家のスペックは、写真にはあまり写らない。海外製の食洗機。スマートキーの玄関は、キッチン横のパネルからも開錠できる。どれも、暮らし始めた日から毎日効いてくるものばかりだ。質は、目立つ場所より先に、手が触れる場所に入れる。
玄関からLDKへ延びる廊下は、既存の合板壁と天井をそのまま使った。突き当たりには、シナベニアのニッチを造作した。正面から見えるのは、白い箱がひとつ。だが廊下の電灯スイッチは、この裏に忍ばせてある。タンブラスイッチに、ベニアのプレート。廊下にスイッチの化粧板が並ぶのが、どうしても嫌だった。目立たせたくないものは徹底して隠し、見せたいものだけを表に立てる。
要望のひとつ、大きめのWICは元の台所の位置に据えた。服の好きなご夫婦のために、収納は左右二列。よく見ると、型板ガラスを嵌めた棚だけ、左右で高さが揃っていない。それぞれが置きたいものに、それぞれの棚を合わせたからだ。造作でしか出せない不揃いがある。
このガラスは、この家の建具から外して再利用したものだ。建具ごと処分すれば一瞬だが、ガラスだけを外し、WICの造作に嵌め直した。残すことは、しまい込むことではない。前より目立つ場所に、立たせることだ。
既存の枠に、新しいヒノキの枠を継いだのもここである。濃い木口と白い木口が、段差なく一本に通る。いつも組んでいる大工は宮大工の出で、この納まりはその腕に任せた。図面で指示できる精度と、手でしか出ない精度がある。残すという選択は、作れる人がいて初めて成立する。
WICを抜けるとランドリーに出る。洗濯機は2台並ぶ。洗う、干す、畳む、仕舞うが、1階の南の帯で一周する。物干しのパイプは、階段下の勾配天井なりに渡した。
ここの窓が、かつての掃き出し窓である。腰窓に作り替え、防犯と断熱を確保した。
2階は和室二間と洋室を、寝室と個室3室に割り直した。白い壁に裸電球。1階の濃度に対して、2階は淡く静かに落としている。
窓を小さくした家は、暗い家になりそうなものだ。だがこの家では、欄間が透け、型板ガラスが透け、棚の間を視線が抜けていく。外に対しては閉じ、中では透かす。閉じることを選んだ家の答えとして、これ以上のものはなかったと思う。
- Location
- 兵庫県姫路市
- Type
- 戸建て全面リノベーション
- Age
- 築42年
- Size
- 建築面積55㎡/延床93㎡
- Scope
- 全面+外構(外壁面は全解体・断熱入替)
- Design Term
- 約6か月
- Term
- 約4か月
- Design / Build
- YON